3. 理解の枠組みを養成する


 

1)理解の枠組みとは

 

私たちが文章を読むとき、そこに提示されている話題を頭の中にある知識や経験から作られた「枠組み」に照らし合わせて理解しようとします。

 

このような知識や経験から作られた「理解の枠組み」を「スキーマ」と言います。

 

 

入試の論説文の内容がちっとも頭に入ってこないというばあい、この「スキーマ」が頭の中に十分できていない可能性があります。

 

スキーマには、語の言い回しや構文の意味といった小さなものから、文章の主題といった大きなものまでさまざまなものがあります。

 

たとえば、難しい漢語やカタカナ語、独特の言い回しなど、ふだん会話しているときには使わない言葉づかいがたくさんでてくると文章が読みづらくなりますね。

 

また、自分のまったく知らない分野の専門的な内容の文章がなかなか理解できないという経験があることでしょう。

 

これは、背景知識という「スキーマ」を持たないから起こることなのです。

 

 

以下に具体例を挙げて説明してみましょう。

 

 

 

 

◆語学的スキーマ

 

次の文を見てください。

 

───── 以下引用文 ─────

 

 

人は萬物の靈にして五穀草木鳥魚獸肉盡く皆喰はざるものなし。(福沢諭吉『肉食之説』より抜粋)

 

 

 ───── 引用文終わり ─────

 

 

これは明治時代に書かれた文章で、明治文語文などと言われます。古文と漢文を足して割ったような文章で、もう現代語とは程遠い表現です。

 

 

この文章を読み取る「理解の枠組み=スキーマ」として次の知識が必要です。

 

 

①漢字の知識

 

・「萬」は「万」の、「靈」は「霊」の、「獸」は「獣」の、「盡」は「尽」の旧字体。

 

・「喰」は常用漢字にない漢字で「食」とだいたい同じ意味。

 

 

 

②「歴史的仮名づかい」の知識

 

・「喰ざる」は「クザル」と発音する。

 

 

 

③古典文法の知識

 

・「ざる」は打消しの助動詞で「・・・ナイ」という意味。

 

 

 

④漢文訓読体の知識

 

・「にして」「ざるものなし」は漢文訓読体という文体で、それぞれ「断定」「二重否定」という表現。

 

 

 

⑤言葉の意味の知識

 

・萬物(ばんぶつ)「宇宙に存在するすべてのもの」

 

・五穀(ごこく)「人間の主食となる穀物で、米・麦・粟・黍・豆のこと」

 

・盡く(ことごとく)「すべてにおよぶさま」

 

 

 

たった一文にこれだけの「理解の枠組み」が必要となります。

 

 

 

以上は、ちょっと特殊な語句や文法の知識などの語学的スキーマでした。

 

次に、もっと一般的なスキーマについて見てみましょう。

 

 

 

 

◆背景知識のスキーマ

 

つぎの文章を読んでください。

 

───── 以下引用文 ─────

 

 

鉄のくさりを両手で握って、行ったり来たりをくり返す。最初はゆっくりしているが、次第に速くなる。しかし、ゆっくりでも早くても、リズムはつねに一定である。立つこともできるし、座ることもできる。並んですわることもある。

 

石黒圭『「読む」技術 速読・精読・味読の力をつける』光文社新書 より 

 

───── 引用文終わり ─────

 

 

問. これは何を説明した文章でしょうか。

 

 

  

  

よく考えてください。

 

 

 

  

 

解答は、ブランコです。

 

あの、公園などにある遊び道具のブランコです。

 

 

「ブランコ」という解答を知ってから、つぎの説明文をもう一度読んでみてください。

 

 

鉄のくさりを両手で握って、行ったり来たりをくり返す。最初はゆっくりしているが、次第に速くなる。しかし、ゆっくりでも早くても、リズムはつねに一定である。立つこともできるし、座ることもできる。並んですわることもある。

 

 

 

どうですか?書いてあることが頭の中でつながりを持ち、「ピンとくる感じ」がしたのではないでしょうか。

 

このとき、頭の中では、「ブランコ」というもののスキーマが呼び起こされて、それに文章の内容が当てはめられて、理解がなされているのです。

 

ブランコというものを一度も見たことがなく、上の文章の説明を理解するのは非常に難しいでしょう。

 

 

文章の読解には、このような理解の前提となるこの世界に存在するいろいろなものに関する「背景知識としてのスキーマ」が必要になるのです。

 

 

たとえば、地球温暖化について書かれた文章を読んだとします。

 

二酸化炭素の持つ温室効果や車の排気ガス中に二酸化炭素が含まれることなどについて知っていると理解が早まるでしょう。

 

しかし、そういった背景知識がなければ、まず、何が書かれているのか理解できません。

 

もし、これらのことを調べながら読むとすると、たいへんな時間と根気とが必要になります。

 

 

 

「読解力」とは、文章内容に当てはまる「スキーマ」を頭の中から呼び出し理解する力のこと。

 

 

 

 

 

2)読解力とスキーマ

 

以上のことを踏まえると、読解力をつけるには、次のふたつのことが必要になることがわかります。

 

 

1. いろいろな分野の「スキーマ」を頭の中に蓄積すること

 

2. 適切な「スキーマ」を呼び出すスピードを高めること

 

 

 

 

◆語学的スキーマの養成法

 

ことばの知識を増やし、語彙力をつけるには次のような方法があります。

 

 

1.文章を読んでいてわからないことばが出てきたら、こまめに辞書をひくこと

 

2.意味付きの漢字問題集を読みこんで語彙力の増強に励むこと  

 

 

これらの勉強をコツコツ積み重ねましょう。

 

 

 

 

◆背景知識のスキーマ養成法 

 

受験におけるスキーマ養成で重要なのは、やはり評論文です。

 

近年の入試問題では、文芸・思想・科学・社会・芸術などのさまざまな分野の評論文が出題されます。

 

評論文の背景知識を身につけるには、読書をすることが必要です。

 

ただ、受験生は読書をする時間がそんなにとれないかもしれません。

 

そんなときは、現代文の問題集の文章を以下の手順で読みこむことをおすすめします。

 

 

1. 高校入試や大学入試の論説文の問題集を一冊用意する。

 

2. わからないところがない状態まで文章を調べつくす。

 

 

3. その文章を繰り返し何度も読みこむ。

 

 

問題集には、入試頻出の分野の論説文が適度な長さで収録されています。

 

問題演習だけでなく、スキーマ養成のために読みこむ教材として有効活用しましょう

 

 

さまざまな分野の文章を20題くらいこの方法で読みこんでください。

 

きっと評論文のスキーマが身についてくるでしょう。

 

 

 

 

 ◆読解スピードを高める方法

 

上記の方法で読みこんだ文章を「毎日」「高速で」読み続けてください。

 

そうすれば、頭の中の「スキーマ」を呼び出すスピードがしだいに速くなっていきます。

 

 

この訓練により、「スキーマ」の習熟と呼び出すスピードとの両方が鍛えられ、文章読解の理解とスピードが飛躍的に高まるでしょう。

 

 

ぜひ、チャレンジしてください。

 

 

 

 

 まとめ◆

 

・論説文の読解力をつけるには「スキーマ」を身につける必要がある。

 

調べつくした論説文を繰り返し高速で読みこむことでスキーマとスピードが身につく。

 

 

 

 

戻る