3. 国語が苦手な生徒の対処法
苦手な生徒ほど、実は成績を伸ばすのは簡単です。
なぜなら、苦手な生徒は、本当の基本中の基本がわかっていないことが多いからです。
ですから、何がわかっていないのかをはっきりさせ、いっしょに一つ一つ解決すれば、成績はかならず伸びます。
しかも、国語の場合は、文章を真剣に読むことさえできれば、業者模試の偏差値50は比較的容易に達成できます。
あとは、苦手意識がなくなれば、徐々に成績も伸びていきます。
以下の三つのポイントがとても大切です。
◆国語が苦手な生徒の対処法3
1)「当たり前」を捨てる
2)気持ちを前向きにする
3)過程をいっしょにたどる
1)「当たり前」を捨てる
生徒指導の時に、「これはできて当たり前」という先入観を持つのはとても危険です。
昔、次のような生徒がいました。
・読解の文章を読まずに解いている。
・自分の好きな選択肢を選んでいる。
・中学生でも小学校レベルの漢字が読めない。
・高校生でも小学校レベルの語句の意味がわからない。
などです。
「常識的に考えてさすがにこれはできるだろう」は危険です。
常識は人によって違うのです。
ここで個人的経験をひとつ。
むかし、何度解いても全く正解しない中1の生徒がいました。
その子は、なんと設問の
「最も適当なものを選びなさい」
という文の意味を
「最もいいかげんなものを選びなさい」
という意味だと思っていたのです。
たしかに「適当」という語には
①よくあてはまるようす。
②ちょうどいいようす。
③だいたいの感じでするようす。不徹底。いいかげん。
(『三省堂国語辞典』第七版)
という三つの意味があります。
しかし、まさか、③の意味で問題に取り組んでいようとは、若き日の私は思いもしませんでした。
生徒にたいして、当たり前という常識的判断を下すのは禁物なのです。
2)気持ちを前向きにする
すでに、「生徒の集中力を引き起こす方法」のところで述べましたが、苦手な生徒というのは、
◆わからないので
・自信がない
・やる気がない
・面倒くさい
というように、メンタル面で勉強にたいしてマイナスイメージを持っていることが非常に多い。
このマイナスの気持ちを少しでも減らすことが、苦手な生徒の成績を伸ばす重要なポイントです。
そのために教える側の気をつけることが三つあります。
ア)明るく前向きな表情と言動
イ)できなくても大丈夫だという雰囲気
ウ)何でもいいからほめること
アは、例えば次のような言動です。
・いつもニコニコ明るい表情。
・元気なあいさつ「こんにちは!」「今日も頑張ろう!」「また次回ね!」
・「〇〇くんが来てくれて超うれしいよ」
・「○○さんと会うと私もなぜか元気になるよ」
・「次回もいっしょにがんばろう」
などと、テンションアップする言動を大げさにしましょう。
じつは、私は基本的に「陰の気質」を持つ性質なのです。
しかし、授業のときは「役割」を自覚し「陽キャラ」を演じるように心がけています。
勉強以外のことでも、とにかく前向きになれる雰囲気づくりを心がけましょう。
イ)は、すでに何度も述べています。
できない生徒には、
・できないから塾にきているんだよ。
・今回間違えたから、つぎは間違えにくくなるね。
・試験前に間違いをすべてやりつくそう。
・間違った数だけ経験値がアップするんだよ
などと言って励まします。
脳科学でも、間違えたほうが記憶に残りやすいという研究成果が出ているそうです。
間違えたときは、しっかり考え次に生かすことが大事です。
ただ、「間違いを繰り返さないようにすること」は強調しておきましょう。
ウ)も意外に効果的です。
とにかく、子どもは感情に影響されがちです。(大人も表に出さないだけでだいたい同じですが)
ほめてほめてやる気アップしてもらいましょう。
ここで、また体験談を一つ。
むかし、宿題を忘れるし、授業中に騒ぐし、言うことをきかない中1の生徒がいました。
若き私も内心頭にきていたのですが、叱りつけても効果なし。
ほめようとしても、どこもほめるところがない。
そこで、苦しまぎれに発したセリフが
「今日の〇〇くんの服、めちゃくちゃカッコイイな!超似合っているね」
なんと、次の瞬間その生徒は、顔を真っ赤にして黙り込んだのです。
そして、以前より言うことを聞いてくれるようになりました。
現在は、外見をほめることさえハラスメントと見なされるので、難しいところです。
でも、相手を認めて自己肯定感をもたせること
これが、生徒の成績アップに有効なことは確かです。
3)過程をいっしょにたどる
さて、生徒の気持ちが前向きになったら、じっさいの指導に移ります。
苦手な生徒は、何をどうしたらいいかわからない。
だから、指導者はスタートからゴールまでの過程を生徒といっしょにたどることが大切です。
そのために、教える側は次のことを行います。
①目的達成までの思考の過程をできるだけ多くの段階に分ける
②目的達成までの過程のバリエーションをなるべく多く考える
③思考の過程を生徒といっしょに確認しながらたどる
①は、できない生徒の原因を分析するのにとても有効です。
ちょっと、国語の勉強を車の運転に例えてみましょう。
・車の運転はセンスだから勉強しても無駄だ
・運転の仕方は努力して自分で身につけろ
・たくさん運転すれば自然とできるようになる
こんなアドバイスどうですか?
信じられませんよね。
これが国語学習において、平気で言われてきたセリフです。
私は自動車の教習所に通ったとき、手順を段階に分解しました。
以下、参考までに。
◆自動車運転手順◆
1、乗車
①後方下確認 ②前方下確認 ③左右安全確認 ④ドア開ける ⑤乗車
2、発車準備
①ドアロック
②座席の位置・角度調整(クラッチを踏み切って膝が少し曲がるくらい)
③バックミラー・ドアミラー調整
④シートベルトを締める
3、エンジンを掛ける
①フットブレーキをふむ
②ハンドブレーキ確認(持ち上げる)
※安全対策でブレーキをさきにかける
③クラッチをふむ
④ギアN確認
※急発進しないように動力を切断する
⑤エンジンをかける(キーを右に回す)
4、発車
(エンジンはかかっている)
①前後左右の安全確認
・ルームミラー→・ドアミラー→・合図→・ドアミラー→・死角目視
②右発進合図
③フットブレーキふむ
④クラッチふむ
⑤ギアをロー(1)に入れる
⑥ハンドブレーキを下にもどす
※ブレーキ解除はいつもさいご!
⑦自身の目で安全確認(再度ドアミラー 死角目視)
⑧フットブレーキをはなし、アクセルをふむ
⑨クラッチを徐々にもどし、半クラッチにする
⑩動き出したらクラッチを徐々に放し、アクセルをゆっくりふみ発車
慣れるとこれを全部無意識にやれるようになるわけですよ。
文章読解のプロセスもできるだけ細かく分けるのです。
できる人がとっている行動を、無意識のものまで含めできるだけ細かい段階に分け明示するのです。
そして、生徒がどこでひっかかるのかチェックします。
こうして、できない原因をはっきりさせるのです。
②は、説明のしかたのバリエーションをたくさん用意するということです。
むかし、向山洋一氏の本を読んでいたら、たしか
「一つのことにつき、10通りの説明方法を考え出せ」
という記述に出くわして驚いたことがあります。
教え方のプロならば、生徒の個性に合うさまざまな方法を知っているべきだということでしょう。
さすがに10種類は多すぎますが、問題解答の過程を3種類くらいは想定しておくべきでしょう。
そして、生徒の反応によって、使い分けるのです。
さて、上記①と②ができれば、あとは
③思考の過程を生徒といっしょに確認しながらたどる
を実行するだけです。
その生徒に適した細かく分けた過程をいっしょにたどってゆくのです。
慣れてくると、生徒もひとりでできるようになります。
ただし、これは、かなり時間がかかります。
それに、集団授業には向きません。
私は、個人指導や過去問の質問受付のときに行っていました。
苦手な生徒をピンポイントで指導するときに有効だと思います。
苦手な生徒にとっては当たり前でない過程をいっしょにたどることで、できるようにする。
これが国語が苦手な生徒の対処法です。